あめと言いながらあめではなく、ゆきの中を帰って参りやした。
会社の所在する地区の他社さんとの会合の場所が、
島根の酒造メーカーの経営する居酒屋さんだったもんで、純米酒をしこたま頂きやした。
ほんとは、〆にどっかで蕎麦でも啜ってこようかと思ったんでやんすが、
みるみる内に、街が真白に染まっていくので慌てて帰路に着きやした。
その白い街をよちよち歩きながら、高校時代の青かりし頃のことをふっと思い出しやした。
当時は、中原中也に傾倒してた真っ盛りの頃で、
雪が降ると必ず授業をさぼって、新宿の三角ビルに登ったもんでやんした。
正直、東京は雑多にごみごみとしておりやして、お世辞にも綺麗とは言えやせん。
それが、雪の日だけは、真白に染まりやす。
それを鳥の眼で眺められるのが、当時学生がタダで見られるうってつけの場所が、
新宿の三角ビルだったわけでやんす。
ごみごみとした汚れた下界が真白に染まるのを眺めると、
自分が天使にでもなった気がしたもんでやんす。
そんな感動を味わっていた頃の気持ちをふっと思い出す、
そんな魔力が雪にはあるようでやんす。
今で真っ先に、明日の出勤の難儀を心配するようになっちまったんでやんすが、
そんなことを考えないでいられた時代が一番幸せだったのかもしれやせん。